LTVという言葉を頻繁に聞くけれど、いまいち正確な意味や使い方を理解できていないのではないでしょうか。
本記事では、LTVとは何か?LTVをどのように使えばいいのかをケーススタディも交えながら具体的に解説していきます。
目次
LTV(ライフタイムバリュー)とは?
LTVはLife Time Value(ライフタイムバリュー)の略称で、日本語では顧客生涯価値と呼ばれる指標です。端的に言うと、いち顧客から生涯にわたって得られる収益の総額のことを指します。
商品やサービスへの満足度が高いと、繰り返し使ってくれるためLTVが高くなる傾向にあります。
企業によって売上で見る場合と、利益で見る場合のどちらのケースもあります。
本記事ではLTV=売上として説明を行なっていきます。
なぜLTVが使われているのか
LTVは大企業からベンチャー企業までビジネス規模に関わらず利用されている指標ですが、LTVが活用される背景について見ていきましょう。
デジタルマーケティングによって顧客管理の解像度が上がった
最も大きな要因はデジタルマーケティングが浸透したことで顧客管理の解像度が上がったためです。インターネットの登場、スマートフォンの登場によって、人々の生活習慣はガラッと変わり、多くの人がネット上で時間を費やすことが増えました。
SNSや動画配信サービスなどをはじめとしたデジタルサービスはデジタル上で顧客管理ができるため、マーケティング効果が一目瞭然です。
サイトに訪問した人のうち何割が入会したか、いつ入会したか、滞在時間はどれくらいか、いつ退会したか、など全ての情報を追うことができます。
一方で、店舗を構えて販売するビジネスではユーザーがどれくらいの頻度で何を購入しているかといった情報を正確に追うことができません。
全ての情報を計測できるデジタルサービスでは、LTVを計算することで投資にどれだけかけられるかを正確に意思決定できるのです。
サブスクリプションサービスの台頭
特にデジタルサービスで流行しているのがサブスクリプションと呼ばれる月額課金制のサービスです。私たちが普段使っているようなネットフリックス、YouTube、UberEatsなどもサブスクリプションが採用されています。
また、BtoBにおいてはSaaS(Software as a Service)と呼ばれるソフトウェア製品をクラウドで提供するサービスが台頭しています。そして、これらの多くがサブスクリプションモデルでサービスを提供しているのです。
セールスフォース、Slack、Microsoft365などは代表例でしょう。
これまで企業向け商品はパッケージで販売されていて、一度購入すればずっと使える買い切り型が中心でした。昔、WindowsPCにワードやエクセルを入れるために、Officeソフトを家電量販店で購入した経験がある人もいるのではないでしょうか。
しかし、サブスクリプションの登場によって買い切り型から月額課金制に大きくシフトチェンジしたのです。買い切り型では新規顧客の獲得が非常に重要でしたが、サブスクリプションでは新規顧客の獲得と同じくらいどれだけ継続利用してもらえるかが重要になります。
従って、売上の多くを月額課金で得るサブスクリプションサービスでは、LTVが非常に重要な経営指標となるのです。
LTVの計算方法
LTVは下記の計算式で算出することができます。
LTV = 1回あたりの平均購入単価 × 年平均購入頻度 × 平均継続期間
例えば、月額1000円の動画配信サービスを3年利用して退会した場合、LTVは下記のようになります。
LTV = ¥1,000 × 12回 × 3年 = ¥36,000
LTVは3万6千円です。
年平均購入頻度と平均継続期間は、初回購入で満足してもらわないと上げることができない数値なので、継続利用をしてもらうことがいかに重要かが理解できると思います。
LTVの考え方【ケーススタディ】
具体的に様々なサービスを題材にしてLTV算出の例を見ていきましょう。
コンビニを運営する企業A
企業Aは大手コンビニエンスストアを全国で展開しており、1回顧客が来店して購入する商品の平均売上額は400円です。また、顧客は平均して年に50回コンビニを利用し、平均の継続利用年数は30年です。
LTV = ¥400 × 50回 × 30年 = ¥600,000
この場合、企業Aが運営するコンビニのLTVは(1顧客から生涯に渡って得られる売上の総額)は60万円となります。
ネットで化粧品を販売する企業B
企業Bは1セット4000円の化粧品をインターネット上で販売しています。毎月定額で提供するサブスクリプションモデルを採用しており、年間10%の顧客が解約します。
LTV = ¥4,000 × 12回 × 1/0.1 = ¥480,000
この場合、企業Bが販売する化粧品のLTV(1顧客から取引期間中に得られる売上の総額)は48万円となります。
ただし、化粧品の場合は一度解約しても再度登録をしてもらうチャンスがあります。今回はそのケースを考慮に入れていませんが、再度登録してもらうための施策を実施して、さらにLTVを上げることができます。
研修サービスを販売する企業C
企業Cは毎年、新卒向けの研修を単価500万円で販売し、1社あたり平均5年利用してくれています。
LTV = ¥5,000,000 × 1回 × 5年 = ¥25,000,000
この場合、企業Cが販売する研修サービスのLTV(1社から取引期間中に得られる売上の総額)は2500万円となります。
企業Cも企業Bの化粧品のように他社サービスに乗り移られても、再度自社の研修サービスを利用してもらうチャンスはあります。しかし、個人向け商品に比べて乗り換えコストが大きく、検討期間も長いため、ハードルは高くなります。
大学受験予備校を運営する企業D
企業Dは有名大学への進学率の高さを売りにしている大学受験予備校を運営しています。受験予備校は年間100万円で、平均すると1顧客あたり1.2年継続しています。
LTV = ¥1,000,000 × 1回 × 1.2年 = ¥1,200,000
この場合、企業Dが運営する大学受験予備校のLTV(1顧客から生涯に渡って得られる売上の総額)は120万円となります。
大学受験予備校は一度大学に受かると利用することはなくなるため、人生で一度しか利用しません。そのため、生涯に渡って得られる売上の総額を算出しやすいです。
LTVを高める方法
LTVがの使い方が分かったところで、次にLTVを高める方法について見ていきます。
方法は3つあります。
具体的に施策内容を解説します。
商品の購入単価を上げる
まず1つ目は、商品の購入単価を上げる方法です。
下記方程式のうち、「1回あたりの平均購入単価」を上げることでLTVを高めます。
LTV = 1回あたりの平均購入単価 × 年平均購入頻度 × 平均継続期間
ここでは、商品の購入単価を上げる代表的な施策を4つご紹介します。
商品の値上げ
最もシンプルです。同一商品の料金を値上げする方法です。その商品・サービスがなくてはならないという程、顧客が価値を感じていれば値上げは有効な手段になり得るでしょう。
例えば、私は長らくAmazonプライム会員に入っていますが、2019年に初めて値上げが行われました。年会費が3900円から4900円になったのですが、私は全く気になりませんでした。
なぜなら、Amazonプライムが提供する体験価値に4900円以上の価値を実感していたからです。Amazonプライムのお急ぎ便や当日お急ぎ便、日時指定配送は生活をする上で欠かせないサービスです。これら無しでは生きていけない体になっていたのです。
一方で、「安さ」を売りにしているサービスなどは、値上げによって顧客が離れてしまうリスクは高いです。商品の値上げは諸刃の剣であり、顧客目線に立って納得感があるかが最も重要となる施策です。
アップセル
アップセルとは、特定の商品の購入を検討している顧客や、過去に商品を購入したことがある顧客に対して、より高価な上位のものを購入してもらう手法です。商品に付加価値をつけることがポイントです。
例えば、ニュースアプリで月額1000円を支払えばオリジナルの記事が見れて、3000円を支払えば会員同士のコミュニティに参加できたり、クローズドのセミナーに参加できるといった具合です。
クロスセル
クロスセルとは、特定の商品の購入を検討している顧客に対して、他の商品もセットで購入してもらう手法です。
例えば、スマートフォンを購入する際に、保障サービスへの加入をオプションとして促したり、スマートフォンのケースを販売するといった具合です。
その他にもAmazonで商品を購入した際に、「この商品を購入した方はこちらの商品も購入しています」とレコメンドをされると思いますが、これらもクロスセルの施策です。
松竹梅の法則を使う
松竹梅の法則とは、料金プランを3つ提供すると多くの人は真ん中の料金プランを選ぶという法則です。
もし、商品を3000円で売りたいと考えるなら、3000円のプランを真ん中に設定すると売れやすくなります。
松:2000円
竹:3000円
梅:4000円
また、真ん中のプランを売るために「おすすめ」や「一番人気」と訴求しているケースも多いです。改めて商品を見渡すと、様々なところで松竹梅の法則が使われていることに気づくでしょう。
購入頻度を上げる
2つ目は、購入頻度を上げる方法です。
下記方程式のうち、「年平均購入頻度」を上げることでLTVを高めます。
LTV = 1回あたりの平均購入単価 × 年平均購入頻度 × 平均継続期間
購入頻度を上げるために最も重要なことは商品の満足度を高めることです。商品に満足していないのに、継続利用されることはまずありません。
また、商品の満足度は料金に大きく左右されます。極端な話、高級ホテルのようなサービス体験を格安で提供すれば、満足度は最高レベルに達するでしょう。
しかし、現実には利益を生み出す必要があるためそのようなことはできません。限られたリソースの中でいかにユーザーの期待値を上回ることができるかがポイントです。
小売業や消費財の場合は、商品の改善に加えて、メール配信やチラシなど利用を促進する施策を実施して購入頻度を増やすこともできます。
デジタルサービスの場合は、UIの最適化、機能開発、サービス体験の設計を通じて商品の価値を磨き込みます。また、顧客と対面で接することがないデジタルサービスではカスタマーサポートの質も商品の価値に大きく影響します。
契約期間を伸ばす
3つ目は、契約期間を伸ばす方法です。
下記方程式のうち、「平均継続期間」を上げることでLTVを高めます。
LTV = 1回あたりの平均購入単価 × 年平均購入頻度 × 平均継続期間
これは主にサブスクリプションサービス向けの施策になります。サブスクリプションでは定期購入が一般的ですが、ここに年間プランや3年プランのような長期契約を組み込むことでLTVを上げられます。
平均継続月数が6ヶ月のサービスで年間プランを購入してもらえれば、それだけで平均の2倍の売上が立ちます。年単位で売上が確定するため経営も安定します。
年間プランを売るために、企業は年間プランを選択すると1ヶ月分が無料になるといったような、年間プランをお得に見せるオファーを出しているケースも多いです。
LTVを高めると新規顧客獲得や顧客維持施策の投資額を増やせる
LTVを高めることは、つまり1顧客から得られる売上を増やすことです。売上を増やすことができれば、投資に使えるお金が増えてビジネスを拡大できます。
ここでいう投資とは、新規顧客獲得コストと顧客の継続維持コストがあります。
新規顧客獲得コストは広告費などが含まれ、継続維持コストには商品・サービス改善やカスタマーサポートの人件費などが含まれます。
一方で、LTVを高めるために先行投資が必要な場合も多いです。先行投資を行って初期は赤字を出し、継続課金の積み上げによって将来的に黒字転換を見込みます。
いかがだったでしょうか。
このように、LTVはビジネスを推進する上で重要な指標であることが分かっていただけたのではないでしょうか。
まずは自社のLTVを試算するところから始めてみましょう!
内容のまとめ
- LTVはLife Time Value(ライフタイムバリュー)の略称で、いち顧客から生涯にわたって得られる収益の総額のこと
- LTVは企業によっては売上で捉えることもあれば、利益で捉えることもあるため、自社なりの定義をする必要がある
- LTVが使われる背景には、デジタルマーケティングによって全ての顧客データを計測できるようになったことが大きく影響している。これにより、サブスクリプションモデルのビジネスが台頭し、LTVが経営の重要指標となった
- LTVは、「LTV = 1回あたりの平均購入単価 × 年平均購入頻度 × 平均継続期間」で計算することができる(LTVを売上とする場合)
- LTVを高めるためには、①商品の購入単価を上げる、②購入頻度を上げる、③契約期間を伸ばす、という3つの方法がある(LTVを売上とする場合)
- LTVを高めると新規顧客獲得や顧客維持のための投資額を増やすことができ、ビジネスを拡大できる