【要点まとめ】「売上最小化、利益最大化の法則」には今日から使えるマーケの思考法が詰まっていた

本書「売上最小化、利益最大化の法則」の著者は、東証一部上場企業の北の達人コーポレーション代表取締役社長を務める木下勝寿氏です。Twitterでも非常に役に立つ情報を発信されているので、マーケターはフォロー必須です。

売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密

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特徴的なのは会社の社長でありながら、マーケティング責任者を兼任しているということです。「世界最高峰のネットマーケティング集団」と称す程、デジタルのマーケティングを得意としています。

本書は実践的な経営本でありながら、マーケティングにおいても示唆に富んだ内容がたくさん詰まっています。本書の要点を纏めつつも、特にマーケターに取って役立つ情報を取り上げていきます。

【要点①】売上10倍は「リスク10倍」を意味する

まずは、本書のタイトルでもある「売上最小化、利益最大化」から言及していきたいと思います。北の達人は創業からとことん利益にこだわった経営を行なっており、東証一部に上場している企業の従業員1人あたり利益が平均約303万円のところ、北の達人は約7.7倍に当たる2332万円を実現しています。

ネット系企業は広告費をガンガン先行投資して赤字を垂れ流し、シェアを獲得できてから投資を回収しようとします。しかし、木下氏はマメに利益を回収すべきだと言います。その理由は、広告を大量に投下して目立つと競合が増え、回収期に市場がガラッと変わって利益を回収できなくなるからです。

そのため、常に売上と利益をセットで考えた経営をする必要があります。例えば、利益が同じA社とB社が存在していて売上が10倍異なると下記のような経営数値になります。

A社もB社も営業利益は3億円と同じ利益を出していますが、売上が10倍異なります。A社は原価と販管費に97億円費やしているのに対し、B社は7億円。その差は実に約14倍にも上ります。

売上が大きいと一見、会社が大きくて安泰しているように側からは見えるかもしれません。

しかし、企業の安定性を考えるとB社が圧勝します。両社の売上が10%低下した場合を考えると、その理由が分かります。

B社の利益はマイナス0.5億円の一方で、A社の利益はマイナス5億円となり赤字に転落しています。

このことから、同じ利益であれば、売上が大きい方がリスクは大きいということが分かります。売上が大きくなると取り扱う商品量や顧客数も比例して増え、想定外のアクシデントが起きる量も増えます。

アクシデントの量は利益ではなく売上に比例して増えるため、売上を10倍にすることはリスクを10倍にすることを意味するのです。

改めてになりますが、経営の安定性は利益が同じ場合、売上が小さい方が勝ります。これが、本書のタイトルでもある「売上最小化、利益最大化」の意味するところなのです。

【要点②】大手が参入したくないニッチ市場のトップを狙う

北の達人は小さな市場で圧勝する戦略で成長してきました。いわゆるニッチトップを狙う戦略です。その理由は、小さな市場は競合が少なく利益率が高くなるためです。

逆に、1000億の市場を狙おうとすると大手が既に市場を席巻しているか、奇跡的に競合が少なかったとしても圧倒的な資金力を持って殴りかかってきます。結果、利益が出なくなります。

北の達人は10億円の商品を10個つくって売上100億円を目指したそうです。

小さな市場で圧勝するための戦略として商品開発にも力を入れています。中小企業にはマネできない高品質の商品を投入して他を圧倒することで、商品比較をされることがなくなり、広告コストを下げることができるからです。

北の達人では、商品開発は「お客様の悩み」からスタートします。例えば、目の下がだるんとしてきてそのまま放っておくと老け顔になってしまうという悩みを抱える人がいたとします。

この人が欲しているものは、「目の下の悩みを解消してくれる商品」です。そのための手段(=商品形態)は問いません。サプリメントだろうが、美容液だろうが、クリームだろうが悩みが解消されれば言い訳です。

実際に北の達人は様々な形態の商品をテストして、最も効果のあったクリームを商品化しました。最初からクリームを作ろうとしたのではなく、お客様の悩みを解決しようとした結果、クリームという手段になったのです。

このように、商品形態は問わずに、お客様の悩み解消だけにフォーカスした商品開発を行なっています。そうすることで、従来はなかった「目の下の悩み解消市場」というニッチな新市場を切り拓きトップになることができました。

また、品質管理体制も徹底されており、下記のような体制を敷いています。

徹底した品質管理体制
・試作品は7割以上のモニターが満足したら商品化
・全役員、全社員が1ヶ月使って最終チェック
・品質を評価する項目が750以上
・びっくりするほどいいものができた時だけ発売する
・実際に発売に至るのは開発案件の2%

【要点③】広告費を増やせば新規顧客獲得難易度が上がっていく

マーケティングや広告に不慣れな人は、広告費を増やせば増やすほど顧客を増やせると感じるかもしれません。しかし、実際は違います。

広告費と新規顧客獲得件数の関係には「収穫低減の法則」が働きます。収穫低減とは、同じ投資をしても売上の増加分が段々と小さくなる状態のことです。

つまり、広告費を増やしていくと売上は全体で見ると増加するが、増加分は小さくなるということです。売上の増加分が小さくなれば利益率が悪化します。

以上のことから、広告費を増やしていくと新規顧客獲得の難易度が上がることが分かります。

収穫低減の法則は、イノベーター理論で説明ができます。イノベーター理論とは、新しい製品が市場へ普及される過程を5つの層に分類して考えるマーケティング理論です。

5つの層と市場に占める割合は下記の通りです。

  • イノベーター(革新者)【市場全体の約2.5%】
  • アーリーアダプター(初期採用者)【市場全体の約13.5%】
  • アーリーマジョリティ(前期追随者)【市場全体の約34%】
  • レイトマジョリティ(後期追随者)【市場全体の約34%】
  • ラガード(遅滞者)【市場全体の約16%】

この図において右に位置する人ほど新商品の購入に慎重になるため、新規顧客獲得の難易度が上昇していきます。これが、広告費を増加するにつれて新規顧客の難易度が上がる理由です。

よって、利益最大化観点で考えるなら、闇雲に広告費を増やせばいいという訳ではなく、新規顧客の獲得効率を見ながら、最も利益が出る広告量に調整すべきだと本書は主張しています。

では、利益を最大化するための広告費のマネジメント方法について次の要点で見ていきましょう。

【要点④】CPOとLTVで広告効率をマネジメント

広告を出すのであれば、「投資したコストをいつ回収できるのか」「いくらまでなら投資しても利益が出るのか」を明確にしないといけません。

北の達人が広告効率のマネジメントで扱っている指標が「上限CPO」と「LTV」の2つです。

CPO(シーピーオー)とは、Cost Per Orderの頭文字を取った略称で、1人の顧客を獲得(受注)するのにかかるコストを指します。上限CPOは1顧客を獲得(受注)するのに「ここまでならかけてもいい」販促費のことです。販促費には営業の人件費や広告費などが含まれますが、ネット企業の場合ほとんどが広告費です。

LTV(エルティーブイ)とは、Life Time Valueの頭文字を取った略称で、1顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益を指します。一般的には、商品やサービスに対する愛着(顧客ロイヤリティ)が高いほど、LTVは高くなります。

LTVは特にサブスクリプションと呼ばれる定期購入サービスや、コンビニのように一度きりの利用で終わることがないサービスで重宝される指標です。下記の図のように、初月では利益が出なくても継続的な売上によって将来的な黒字転換を見込むことができます。

要点③で説明した通り、イノベーター理論の層が右に進むにつれて新規顧客獲得の難易度が上がります。よって、一般的に下記の図のようにCPOも上昇していきます。

以上のことから、新規顧客獲得件数が増えれば増えるほど(つまりイノベーター理論の層が右に行くほど)、平均CPOは上がっていくことが分かります。

CPOが上昇するからといって広告費を抑えた方がいいという訳でもありません。大事なことは、最も利益が出るCPOを見極めることです。下記は1人あたりの売上、コスト、利益と全体の売上、コスト、利益を可視化した表です。

※LTVは本来売上に粗利率を掛けて算出しますが、計算式が複雑になるためここでは粗利率は100%ということにして、LTV = 売上として話を進めたいと思います。

この場合、全体利益が最も多いのはCPOが6000円の時です。売上最大化を目指すならCPOを9000円に設定すべきですが、全体利益の最大化を目指すならCPOを6000円に設定することが最も望ましいということになります。

また、1人あたりの利益は当然ですがCPOが少ないほど多くなります。ですが、実際に見るべきは1人あたりの利益ではなく全体利益です。

よって、広告運用をする際の上限CPO(=1件獲得するのにかける広告費)は6000円にするのがベストです。6000円以上かけると、新規顧客獲得数が増えて売上は増加するが、「収穫低減の法則」にハマって、全体利益が減っていくからです。

このように全体利益を見ながら、最も利益が出るCPOを見極めることが広告効率のマネジメントにおいては重要になります。

【要点⑤】目立たないプロモーションが一番利益を生む

プロモーションは目立ってなんぼ、そうでないと多くの人に商品を認知してもらえないと思う方もいるかもしれません。

しかし、著者は目立たないプロモーションをやるべきだと主張します。なぜなら、目立たないプロモーションが一番利益を生むからです。

目立つプロモーションとはテレビCMなど不特定多数の人を対象にした広告のことで、目立つプロモーションによって売上が上がると競合に目をつけられます。すると、市場がレッドオーシャン化して利益率が下がります

一方、目立たないプロモーションはターゲットのみに認知してもらうことを目的とした広告で、ターゲット外の人に認知してもらう必要はありません。目立たないプロモーションによって売上が伸びても競合が生まれないので永続的に成長できます。結果、利益率も高水準をキープすることができます。

北の達人は徹底して目立たないプロモーションを行なっているため、若いWebマーケティングに関心のある人は「北の達人」は知っていても、北の達人が提供する「北の快適工房」という健康食品化粧品を知らないことがほとんどだそうです。

事実、私自身も北の達人については知っていましたが、商品は初耳でした。ターゲットではない人に知ってもらう必要はないからです。

言葉使いはキャッチーですが、利益重視の非常に合理的な考え方で、多くの中小企業やベンチャー企業が参考にできると思います。

売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密

【話題沸騰たちまち5刷! 日経新聞2回掲載】中国、台湾、ベトナムから続々翻訳オファー!◎株価上昇率日本一(1164%)の超効率経営!◎会社の弱点が一発でわかる「5段階利益管理表」を初公開!◎史上初! 無一文から一代で4年連続上場!【コロナ禍に負けない盤石経営の秘密は、「売上を下げる」ことにあった!?】

内容のまとめ

  • 【要点①】売上10倍は「リスク10倍」を意味する
  • 【要点②】大手が参入したくないニッチ市場のトップを狙う
  • 【要点③】広告費を増やせば新規顧客獲得難易度が上がっていく
  • 【要点④】CPOとLTVで広告効率をマネジメント
  • 【要点⑤】目立たないプロモーションが一番利益を生む