この記事に辿り着いたあなたは、今後広告運用の仕事の価値は下がっていくのではないかと不安に考えていると思います。
これから広告運用やWebマーケターの仕事を始めようか迷っている方は、「本当にこの仕事で大丈夫なのか…」と疑心暗鬼になっていることでしょう。
本記事ではマーケター歴5年以上で、現在事業会社のマーケティング責任者を務めている筆者が、広告運用の仕事は今後なくなるのか?という観点でリアルな情報をお伝えします。
これまで少なくとも10人以上の広告運用ができるマーケターと仕事をしてきた経験からも、企業から必要とされる人材や市場価値の高い人材がどういったスキルを有しているのかも理解しています。
記事の後半では、市場価値の高い広告運用者になるために身につけるべきスキルも解説しているので、この記事を通じて目指すべき方向性を考えるきっかけになれば嬉しいです。
目次
広告運用がなくなると言われている理由
広告運用がなくなると言われている理由は、AIに取って代わられるからという風潮によるものです。つまり、人がやっている仕事が機械に置き換えられてしまうということです。
本当に広告運用の仕事は機械に置き換えられてしまうのでしょうか?
私の見解は、一部は置き換えられる可能性が高いが、全てではないです。このようなAIに仕事が代替される論調が巻き起こった時に考慮すべきことは、機械が得意な仕事とは何か?ということです。
機械が人間より得意な仕事は例えば以下のようなものです。
- 決まった工程を速くこなすことが求められる仕事
- 過去の膨大なデータの中から、最適な答えを導くことが求められる仕事
広告運用業務の中でもこれらに該当する仕事はなくなっていく可能性は十分に考えられます。
では、広告運用の中でどんな業務がなくなる可能性があって、なくならない業務はなんなのかを見ていきましょう。
広告運用のなくなる可能性がある業務
まずは、なくなる可能性のある業務から見ていきます。
ここでは、私が無くなる可能性が高いと考える3つの業務を取り上げます。
広告の運用(広告のチューニング)
一つ目は広告の運用業務です。「え、それが広告運用者の仕事のど真ん中じゃないの?」と思われたかもしれませんが、残念ながらそのど真ん中の業務ですら無くなるかもしれません。
10年程前であれば広告運用自体がまだ世間に知れ渡りはじめた頃であり、運用テクニックによって差別化をすることができました。
しかし、ここ最近ではGoogleやFacebookなどが提供する広告運用システムに優秀な機械学習が搭載され、私たち人間よりも最適な解を見つけられる可能性が高まっています。
例えば、Google広告の管理画面では下記の画像のように、AIが最適化案を提案してくれるようになっています。
Googleは膨大なデータを保持しているので、これからも学習を続けて、より精度の高い改善提案をしてくれるようになることは明らかです。
広告運用者が一つ一つ設定を変更してチューニングするよりも、ワンクリックでGoogleの提案を承認した方が成果の出る未来がもう到来していると言えます。
クリエイティブの制作
二つ目はクリエイティブの制作です。クリエイティブの領域は人間の方が得意と思われるかもしれませんが、とりわけ広告運用においてはAIの方が成果を出せる可能性があります。
テレビCM等のマス広告ではブランドイメージや認知度の向上を目的とするケースが多いですが、デジタル広告の場合はCV数(新規顧客獲得数や購入数など)を目的とするのが一般的です。
そのため、クリエイティブ品質よりもCVに直結するものが選ばれる傾向にあります。
過去に制作した大量のクリエイティブの中からCVに繋がりやすいクリエイティブの共通項を抽出し、新しいクリエイティブを作ることが、成果を最大化する上で重要なポイントになるでしょう。これはAIが得意な領域なのです。
2020年に株式会社サイバーエージェントは「極予測AI」と呼ばれる、勝てるクリエイティブをAIが制作するツールを発表しました。極予測AIを使えば、既存のクリエイティブに勝てるとAIが判断した新しいクリエイティブを提案してくれます。
このように、クリエイティブ制作ですらもAIに代替される時代が既に到来しています。
コピーライティング
最後三つ目はコピーライティングです。先ほど、デジタル広告ではCVを目的とするのが一般的と説明しました。
クリエイティブ制作と同じように、広告文ですらもAIが提案したコピー案の方が広告効果が高くなる未来が到来する可能性はあります。
AIは膨大なデータの中から、CVに繋がる傾向のあるキーワードを抽出してコピーを生成できてしまいます。
ただし、AIは現在の延長線上にあるコピー案しか出せない一方で、人間は全く異なる(一見非合理に見えてしまうような)角度から考えることができるのが強みです。
完全に代替されることはないと思いつつも、広告効果の観点ではAIが人間よりも勝ってしまうケースは今後出てくる可能性が高いです。
広告運用のなくならない業務
ここまでで悲観的になった方もいるかもしれませんがご安心ください。ここからは広告運用の仕事の中でもなくなることはない業務について3つ解説していきます。
業務を細分化すればもっとあると思いますが、今回は大きなカテゴリーで考えて以下の3つを取り上げます。
配信戦略の企画
一つ目は配信戦略の企画です。
広告を配信するということは何かしらのビジネスゴールがあります。商品の購入やリードの獲得といったケースが多いでしょう。
広告運用はあくまでこれらのビジネスゴールを達成するための一手段に過ぎません。極論、他に商品の購入やリード獲得につながる方法があるのであれば、広告ではなくそちらを注力すればいいのです。
それでも広告運用を手段として選択している訳なので、広告運用者の一番大事な仕事は自社やクライアントのビジネスゴールを達成することです。
例えば、下記のようなゴール設定がされているとしましょう。
- 獲得単価1万円で、リードを月間100件獲得して欲しい
- 獲得単価3千円で、商品の無料体験を月間50件獲得して欲しい
これらの目標を達成するために広告運用者が考えるべきことはたくさんあります。
- どの広告媒体を利用すべきか
- ターゲティングをどうすべきか
- どのターゲットにいくらの予算配分をすべきか
- どんな訴求のクリエイティブを作るべきか
- 獲得単価が高騰した場合、次の打ち手は何か
これが配信戦略の企画です。この配信戦略次第で成果も全く異なってくるため、広告のチューニングよりもはるかに大切な仕事です。
目的を達成するために戦略を考えることはAIではできません。
運用結果を踏まえた改善提案
二つ目は運用結果を踏まえた改善提案です。Google広告の設定をこう変えると◯%改善する可能性がある、といった特定の広告媒体における改善提案はAIでも可能です。
しかし、ビジネスゴールから逆算した時の、全体の施策の方針を決めることはAIにはできません。ここは広告運用者の腕の見せ所です。
例えば、下記のような提案はAIにはできないでしょう。
- Google広告は◯◯な理由でパフォーマンスが悪いため、Facebook広告に予算を寄せたい
- そもそも広告運用だけで改善は難しいため、ターゲット選定や訴求を見直したい
また、単に改善提案をするだけでなく、ステークホルダー(クライアントや社内の決裁者)を納得させるコミュニケーション力や交渉力も必要です。
最終的にビジネスは人対人で行うものなので、コミュニケーションが絡む仕事や、戦略に近い思考が求められる仕事は人間にしかできません。
運用体制の組織構築
個人事業主や一人社長の会社でない限り、広告運用者やWebマーケターは複数人いることが多いです。もしくは、今は一人かもしれませんが、これから事業が成長していくにつれて採用するケースもあるでしょう。
この時に重要なのが、成果を出せる広告運用組織を構築することです。
あなたが個人として優秀な結果を残しているのであれば、なぜ結果を出せているのかを分析して、他の人でもあなたと同じような結果が出せるようにマニュアル化したり、育成することが求められます。
「他の人にノウハウを教えたくない…」という気持ちが出てしまうかもしれませんが、経営者やマネージャーは個人で成果を出せる人材よりも、チームや組織で成果を出せる人材の方を重宝します。
組織を構築できれば、結果としてあなたはリーダーとなり社内でも欠かせない市場価値の高い人材になっているでしょう。
組織構築や人材育成には高いコミュニケーション能力が求められるため、AIに置き換えられることはまずないでしょう。
市場価値の高い広告運用者になるために身につけるべきスキル
最後に、AIがさらに発達していく時代において、市場価値の高い広告運用者になるために身につけるべきスキルを3つ解説していきます。
コミュニケーション力
一つ目はコミュニケーション力です。
広告運用を行なったとしても、最後はステークホルダーを納得させる必要があります。広告運用者にはステークホルダーに対する説明責任が生まれるため、コミュニケーション能力は不可欠です。
コミュニケーション力をさらに分解していくと、論理的に説明する力や相手の意図を汲み取る力などが挙げられます。
これらの能力を鍛えるためには場数が重要であるため、積極的に上司に提案をしたり、クライアントの前に出る機会を増やしていきましょう。
思考を網羅する力
二つ目は思考を網羅する力です。
広告運用者のなくならない業務で運用戦略の企画を説明しましたが、戦略とは何をやって何をやらないかを決めることでもあります。
良い戦略をつくるために欠かせないことは、すべての選択肢を洗い出せているかということです。もっと他に良い選択肢があるにも関わらず、それを考慮できていなければ大きな機会損失になります。
よって、意思決定をする時には、選択肢を網羅できているのかを考えましょう。
選択肢を網羅する時に役立つのがマインドマップツールです。全体感を捉えつつ、自分が今何を考えているのかを整理することができます。
思考の網羅性を高めることができれば、より良い意思決定ができるようになり、成果も出やすくなります。
イシューを見極める力
三つ目はイシューを見極める力です。
イシューとはベストセラーでもある著書「イシューからはじめよ」の中で提唱された概念で、「本当に解くべき課題」を意味しています。
ネタバレにはなりますが、良いイシューとは以下の3つを満たしているものであると説明されています。
①本質的な選択肢であること
②深い仮説があること
③答えを出せること
多くの人は答えを解くことに時間を使いますが、成果を出している人材は解くべき本質的な課題を見つけることに時間を使っています。
直前で説明した思考の網羅性とも近い部分はありますが、手を動かす前に、本当にこれが今解くべき課題なのか?と問うことを習慣化しましょう。
当然ながら、最も重要な課題に取り組んだ方が解決した時の成果も大きいです。
以上が、市場価値を高めるために身につけるべき3つのスキルです。3つとも広告運用とは直接的に関連しないスキルに見えたかもしれません。
しかし、本質的には広告運用で成果を出すためには必要なスキルばかりです。また、これらのスキルがあれば、広告運用以外の仕事をすることになっても役に立つでしょう。
広告運用業務自体はAIに代替されるかもしれません。であれば、私たち人間にしかできない思考する仕事やコミュニケーションが必要な仕事に時間を使っていけばいいのです。
そのような人材の市場価値は上がり続けるばかりです。
内容のまとめ
- 広告運用がなくなると言われている理由は、AIに取って代わられるからという風潮によるもの。実際には、一部は置き換えられてしまう可能性が高いが、全てではない
- 広告運用のなくなる可能性がある業務
- 広告の運用(広告のチューニング)
- クリエイティブの制作
- レポートの作成
- 広告運用のなくならない業務
- 配信戦略の企画
- 運用結果を踏まえた改善提案
- 運用体制の組織構築
- 市場価値の高い広告運用者になるために身につけるべきスキル
- コミュニケーション力
- 思考を網羅する力
- イシューを見極める力